1. 治療適応
既存の抗うつ薬による薬物療法によっても、期待される治療効果が認められない中等症以上のうつ病の患者さん(18歳以上)が対象です。
ここで抗うつ薬による十分な薬物療法とは、1剤以上の抗うつ薬の至適用量を十分な期間投与したことがあることを指します。ただし、抗うつ薬による副作用で十分な薬物療法が行えない場合は、本治療の適応となります。
気分障害の中でも、双極性感情障害、軽症うつ病エピソードや持続性気分障害の患者さんに対するrTMS療法の適応はありません。幻覚妄想などの精神病症状をともなう重症うつ病エピソードや切迫した希死念慮を認める場合にもrTMS療法の適応はなく、電気けいれん療法などが推奨されます。
rTMS治療をできない(禁忌の)患者さんとは?
1. 絶対禁忌
刺激部位に近接する金属(人工内耳・磁性体クリップ・深部脳刺激/迷走神経刺激などの刺激装置)(注1)、心臓ペースメーカーを有する患者さん。
2. 相対禁忌
刺激部位に近接しない金属(体内埋設型の投薬ポンプなど)、頭蓋内のチタン製品、あるいは磁力装着する義歯・インプラントを有する患者さん、てんかん・けいれん発作の既往、けいれん発作のリスクのある頭蓋内病変(注2)、けいれん発作の閾値を低下させる薬物(メチルフェニデート、ケタミンなど ※添付文書参照のこと)の服用、アルコール・覚せい剤の乱用・離脱時、妊娠中、重篤な身体疾患を合併する場合など。なお、相対禁忌に該当するハイリスク群へのrTMS療法実施に際しては、院内で迅速な対応が可能な医療機関で行い、けいれん誘発などのリスク評価を脳波や脳画像検査を用いて十分に行った上でrTMS療法を実施することが求められます。
(注1)御担当の先生は、該当rTMS装置の添付文書も参照してください。頭蓋内の非磁性体であるチタン製品(動脈瘤クリップや頭蓋骨弁固定用プレートなど)に関しては、絶対禁忌とは考えず、相対禁忌と考えます(チタン製品であることの確認ができない場合は絶対禁忌 ※添付文書参照のこと)。義歯やインプラントに関しては、磁力装着するものでなければ、禁忌とは考えません。
(注2)該当病変によるけいれん発作リスクへの影響が軽微と言えず、相対禁忌と考える場合には、脳神経外科や脳神経内科などの専門家に相談の上、リスク・ベネフィット比率を考えてrTMS療法実施について判断してください。病変や先天奇形がけいれん発作リスクと関係しないことが明らかな場合には相対禁忌と考える必要性はありません。
3.rTMS治療をできない患者さんの具体例
•18歳未満の若年者
•同一のうつ病エピソードに対して,推奨される刺激条件で十分な期間のrTMS療法を1クール実施したにもかかわらず、治療効果が確認できなかった場合(注3)
•明らかな認知症や器質性あるいは症状性の気分障害を呈する場合
•中等症以上のうつ病エピソードの診断基準を満たさず(注3)、以下の診断が主診断・主病態となる場合
・成人の人格および行動の障害
・広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)
・多動性障害(注意欠如・多動性障害)
•精神病症状をともなう重症エピソード、切迫した希死念慮や緊張病症状など電気けいれん療法が推奨される症状を示す場合
•抗うつ薬の著しいアドヒアランス低下をともなう場合(ただし、抗うつ薬による顕著な副作用による低耐性はrTMS療法の適応となる)
•精神作用物質あるいは医薬品使用による残遺性感情障害を示す場合
(注3)うつ症状の再燃・再発の評価およびうつ病重症度の評価に際して、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)や、モンゴメリ/アスベルグうつ病評価尺度、PHQ-9などの臨床評価尺度を援用することが望ましい。